製造業の地位向上

製造業は日本を支える重要な産業です。しかし、製造業は、中国、韓国など外国と厳しい国際競争を強いられています。そのため、一部の非製造業と比べると年収が低くなる傾向があります。

製造業の志望動機は物作りの楽しさですが、年収が低ければ製造業離れは防げません。さらに技能の伝承など日本の製造業の強みが終身雇用の崩壊とともに、失われつつあります。 日本の製造業の今後の崩壊の兆しは、人材面にあるのです。

日本は、高い品質のものを限界までコストを削減して作っています。コスト削減のために、技術者、技術職人など理工系の年収は、低く抑えています。理工系の待遇を限界まで切り詰めることによって、日本の製造業がやっと生きていけるのです。

しかし、一部非製造業との年収格差は拡大し、製造業離れが起こりました。製造業離れが起これば、日本の製造業は、中国、韓国等との競争において、人材面でハンディを負うことになります。安い年収で何とかして製造業に向かわせるという手法は、理系離れにより限界に達しています。

そこで、政府が、理工系に直接お金を支払うようにして、日本の製造業の地位向上を図る必要があるのです。

I.日本の製造業の重要性と崩壊の兆し

1.日本は製造業なしで生きていけない

 日本は、製造業なしでは生きていけません。日本は資源がないので外貨を稼がなれば、資源や食料にも困るようになるのです。

 現在の豊かな日本からは想像できないかもしれませんが、製造業、輸出産業がだめになれば、日本は終わります。

 製造業は、輸出によって外貨を獲得するのに、最も有効な産業なのです。だから、日本の製造業、物作りの重要性は、多く語られています。

 このように、製造業は、日本の生命線ともいえる産業なのです。

2.日本の製造業は、毎年厳しくなる激烈な国際競争にさらされているる 

 しかし、アジアの国などが発展するにつれ、製造業の競争者が増えてきました。日本の製造業は、激烈な国際競争に巻き込まれ、生き残るために必死です。

 中国、韓国等の技術者は、安い年収で長い時間働きます。

 競争に勝つためには、日本の技術者等も、安い年収で長い時間働くことになるのです。正社員ではなく、派遣を使うことになるでしょう。リストラもたくさんするようになるでしょう。

 競争者が増えるにつれて、製造業はどんどん割が悪くなっていきます。欧米は金融業など割の良い非製造業に切り替えていきます。

 日本は、非製造業では食べていけません。そこで、製造業の割が悪くなった分は、技術者等の年収を下げることで対処します。技術者以外にも、非正社員、派遣を使うなど、血のにじむようなコスト削減がなされるのです。

 中国、韓国等の製品も品質、コストとも毎年良くなっていきます。品質、コストの競争をすれば、技術者等の年収は下げざるを得ません。

3.日本の製造業の崩壊の兆し(理系、理工系離れ) 

 しかし、製造業の志望動機は物作りの楽しさにあるとはいっても、年収の格差が広がると、いわゆる「理系離れ、理工系離れ」が生じます。

 製造業に興味があっても、一生涯、中国、韓国等の技術者と命を削るようなコスト削減競争を続けなければならないことを喜んで受け入れる人は、減っていくのです。年収の低さで勝負しても、たとえば年収100〜200万円で働くアジアの国の技術者と勝負するのはきついからです。

 命を削るコスト競争を避けるためには、日本は高付加価値な製品にシフトし、知的財産を強力に保護する必要があります。しかし、現状では対策は十分ではなく、多くの場合、価格競争に巻き込まれているのです。

 そのため、製造業では、技術者等の年収を低くします。正社員を減らし、派遣にします。リストラも行ない、人を育て、職人の技能を伝承することにはコストをかけなくなります。人材の使い捨てを余儀なくされるのです。

 理工系の多くは製造業に就職します。よって、製造業の地位低下により、理工系の地位は全体的に下がります。そして、理系離れ、理工系離れが起こります。また、理工系の中でも、製造業離れにより非製造業に行く人が多くなります。

 アジアの国では、最も優秀な人たちが製造業に行くのに、日本は優秀な人材が製造業から逃避するようになるのです。このような傾向が続けば、日本の製造業は、人材不足により、崩壊することになります。日本の製造業の崩壊の兆しは、すでに人材面に現れているのです。

II. 製造業の崩壊を食い止めるには

1.製造業は、理工系に多くの年収を保証する余力がない

 日本の製造業が、高付加価値な製品にシフトし、アジアの国も日本の知的財産権を尊重するようにすることが重要です。しかし、日本も他のアジアの国も、知的財産を強くする文化がアメリカよりも弱いのです。これを製造業の力で変えられるかどうかは未知数です。

 変えられない場合、血で血を洗う価格競争が避けられなくなります。中国、韓国等の技術者が、年収100〜200万円で1日16時間働くといえば、日本の技術者も同じようにしなければ勝てなくなります。終身雇用の保証もなくなります。

 さらに、インド、ベトナム等の技術者が、もっと安く働くといえば、理工系の年収を、もっと下げなければいけなくなるのです。

 アジアの国は、理工系教育に力を入れており、技術者がどんどん増えていきます。今後、競争者は何倍にも膨れ上がっていくのです。

 それにともなって、日本の技術者等は、もっと、もっと、安く働くことが必要になるのです。

 日本の製造業は、中国、韓国等との品質、価格競争に巻き込まれ、製造業は、理工系に多くの年収を保証する余力がない状態が続くのです。それを見越して、人々は、理工系離れ、製造業離れをしていきます。理工学部に人が集まらなくなるのです(理工学部の凋落現象 )。

2.製造業の崩壊を食い止めるには、人材の崩壊を食い止める必要がある

 日本の製造業の崩壊は、人材から始まります。人材育成の掛け声をしても、その先には、血で血を洗う競争が待っているのです。

 物づくりの楽しさを教え、子供に理科教室を開いても、その後には、アジアの国の年収100〜200万円での長時間労働者とのコスト削減競争が待っています。

 日本の製造業が、高付加価値な製品にシフトしても、アジアの国も追いかけてくるでしょう。品質、コストとも、日本の製品に遜色ないものが、だんだん増えてくるのです。

 日本の製造業は、アジアの国の製造業とのコスト競争に巻き込まれてしまう危険があるのです。

 そうなれば、製造業には余力がなくなり、コスト削減のため、技術者等の年収を下げなければならなくなります。そして、技術者離れが起こるようになります。また、製造業に余力がなくなれば、技能の伝承など日本の製造業の強みも維持できなくなります。

 すなわち、製造業を支える人材の崩壊です。

 これを何とか食い止めることは、日本の製造業の未来、日本の未来のために重要なのです。

3.製造業の基盤である人材の崩壊を食い止めるには、政府の援助が必要である

 アジアの国には、国力を増大させるために、理系の優遇策をとっている国もあります。日本の製造業は、そのような国と競争しなければならないのです。日本の製造業の崩壊を食い止めるには、政府の援助が必要です。

 特に、製造業の崩壊が懸念される現在、人材面での援助が極めて重要となります。

 政府が、理工系の学費を下げるとか、理工系の奨学金を増加するなどの施策が必要でしょう。

 しかし、現実には、学費や政府の奨学金は、理工系への進学をためらわせるものになっています。

 血で血を洗うコスト削減競争による低い年収の前に、高い学費を支払うことになっているのです。理系離れは当然の現象となります。

 そこで、政府による製造業を応援する思い切った政策が必要になるのです。

III.製造業を支える人材への政府の応援

 政府が人材面で製造業を支援する秘策は、製造業を支える技術者等を、政府が直接的に応援することです。

 製造業の力で、技術者等の待遇を引き上げるのは、すでに厳しい国際競争にさらされている製造業に、さらに大きな負担をかけることになるからです。

 日本の製造業は、日本にいるすべての人々の利益になります。政府が税金を投入して、製造業のアキレス腱である人材面での環境整備を行なうことが、日本の製造業の崩壊を食い止め、その地位を向上させるために重要です。それは、結局は、日本にいるすべての人々の地位向上につながっていきます。よって、これは日本の税金が投入されるべき問題なのです。

 政府の援助の例としては、理工系の学生への奨学金や、理工学部の学費の免除などが挙げられるでしょう。

 さらに、優秀な科学者、技術者は製造業にとって非常に重要です。優秀な科学者、技術者には、惜しみなく多額の国家予算を投入することが必要でしょう。

 たとえば、優秀な科学者、技術者を毎年1万人選び、1人1億円を与えることが考えられます。この計画については、以下のサイトが詳しく論じています。

 科学技術振興の秘策−科学者、技術者の年収1億円1万人計画  

 必要な予算の総額は1兆円にしかなりません。日本の科学技術予算(5年間で約25兆円)を若干増額すれば、十分に可能な額です。そして、これは製造業の地位向上に大きな効果があるでしょう。

 日本の製造業が、自力で理工系の年収を上げることには限界があるでしょう。中国、韓国の技術者との年収の差が、製品のコスト削減に響いてくるからです。そこで、日本政府が、理工系の年収に援助をし、日本の製造業が人材面から崩壊しないような環境整備を行なう必要があるのです。

IV.日本の製造業と理系の連帯  

 日本の製造業は、理工系(理系)と連帯して、日本の地位向上を図る必要があります。製造業が、国際競争で追い詰められるあまり、理工系を安く使い捨てるのは防ぐべきでしょう。日本の内部に血で血を洗う争いが起こることはできる限り避けるべきでしょう。

 日本の分裂を避けるため、日本の製造業と理工系は強力に連帯し、お互いに地位を高めあうことが必要です。

 それが、日本の地位向上につながります。

 製造業の繁栄のためには、理工系が頑張ることが必要です。逆に、理工系の地位向上のためには、製造業が政府に働きかけていくことが重要なのです。

 なお、これは、製造業だけでなく、技術を扱う企業全般にあてはまります。

 日本の製造業と理工系(理系)の連帯のためには、日本の製造業が、目先の競争に勝つために、理工系の年収を下げることは避けなければなりません。それは、自分で自分の手足をおいしそうに食べるようなものです。長期的には、製造業離れ、理系離れを生み、人材面から日本の製造業を崩壊させるからです。

 しかし、製造業は、国際競争に勝ち抜くために、厳しい台所事情があります。そこで、政府の役割が重要になります。

 日本の製造業と理工系は、手をとりあって、日本政府が理工系(製造業の人材の基盤)を支援するように働きかける必要があるのです。

 政府から、理工系の年収等への援助がなければ、製造業と理工系は、血で血を洗う争いをせざるを得なくなることもあるでしょう。

 職務発明対価に関する争いはその一例でしょう。製造業の苦しい台所事情と、理工系の低い待遇から、製造業と理工系が、あたかも檻の中に入れられた1枚のパンくずを必死に取りあうかのように争うことになったのです。

 たとえば、製造業が、100万円の対価を支払えば、それが政府により10倍に増幅されて理工系に支払われるようにすれば良いのです。そうすれば、製造業の台所事情も痛まず、また、理工系の待遇も向上します。すなわち、理工系の地位が向上し、製造業の地位も向上するのです。

 日本政府、製造業、理工系の3者の大連帯が重要です。そして、日本の製造業を、理工系が強力に人材面から支え、物づくり日本を実現していくことが重要となります。

V.日本、日本の製造業、理工系の三者の連帯によるそれぞれの地位向上

 日本の地位向上には、日本の製造業の地位向上が欠かせません。

 日本の製造業を人材面で支え、製造業の地位向上を実現するために、理工系の地位向上も欠かせないのです。

 日本、日本の製造業、理工系の三者は、大きな連帯をして、それぞれの地位を高めていく必要があるのです。

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